この章では、NRにおけるUEの移動性(モビリティ)制御と、それに伴うRRC状態の遷移について、主要な手順とそのトリガー条件を中心に解説します。
NRでは、ハンドオーバー、RRC Release時のリダイレクション、絶対優先度やオフセットパラメータを用いた負荷分散(Load Balancing)がサポートされます。
コネクテッドモードモビリティのためのUE測定は、主に以下のタイプに分類されます。
各測定タイプに対し、測定対象(周波数など)を定義するMeasurement Objectと、報告契機を定義するReporting Configurationが設定されます。これらはMeasurement Identityによって関連付けられます。報告契機にはイベントトリガー型、周期的、イベントトリガー+周期的があります。NG-RANは測定コマンドでUEに測定の開始/変更/停止を指示します。
RRC_IDLE状態のUEは、ネットワークとの接続がなく、自律的に最適なセルを探して待機(キャンプオン)します。
電源ON時やサービスエリア外からの復帰時に実行されます。
| ステップ | 動作概要 | 基準/条件 |
|---|---|---|
| 1. PLMN選択 | NAS層が接続したいPLMNを選択します。 | USIM情報、UE設定 |
| 2. セルサーチ | UEは各周波数でSSB (PSS/SSS)を検出し、最も強いPCIのセルを見つけます。 | SSBの受信電力 (RSRPなど) |
| 3. システム情報取得 | 最も強いセルのMIB (PBCH) とSIB1 (PDSCH) を読み取ります。 | MIB, SIB1 |
| 4. セル評価 | 読み取ったSIB1の情報に基づき、そのセルがキャンプオンに適しているか評価します。 | - PLMN ID一致 (選択/登録/同等PLMN) - セルアクセス禁止/予約状態 - Tracking Area禁止リスト - セル選択基準 (Srxlev, Squal) |
| 5. キャンプオン | Suitable または Acceptable なセルが見つかれば、そのセルにキャンプオンします。 | 評価結果 |
キャンプオン後、UEはより良いセルへ自律的に移動するために継続的に評価を行います。
| 種類 | 動作概要 | 基準/条件 |
|---|---|---|
| Intra-frequency | 同一周波数内の隣接セルを評価し、サービングセルより品質が良い(ランキング上位の)セルがあれば移動します。 | サービング/隣接セルの測定品質 (RSRP, RSRQ)、SIB2/SIB3のパラメータ(オフセット、閾値、ヒステリシス、T_reselection等) |
| Inter-frequency | SIB1で設定された絶対優先度に基づき、より優先度の高い周波数に適切なセルがあれば移動します。同じ優先度内では品質に基づいて移動します。 | 周波数優先度、サービング/隣接セルの測定品質、SIB2/SIB4のパラメータ |
| Inter-RAT | 他のRAT(例: E-UTRA)のセルへの再選択。優先度や品質に基づきます。 | RAT/周波数優先度、測定品質、SIB2/SIB5などのパラメータ |
| その他要因 | 速度依存パラメータ、NCL、Exclude/Allowリスト、スライスベース優先度 (SIB16) などが考慮される場合があります。 | |
UEが接続を開始する(例: データ送信、NAS手順)ための手順です。
| ステップ | 動作概要 | 主要メッセージ |
|---|---|---|
| 1 | UEがRACH手順を開始し、RRC接続確立を要求します。 | Msg1 (PRACH), Msg3 (RRCSetupRequest on CCCH) |
| 2 | gNBが接続を許可し、初期設定情報を送信します。 | Msg4 (RRCSetup on CCCH) |
| 3 | UEが設定を完了し、初期NASメッセージを含めて応答します。 | RRCSetupComplete (on DCCH, SRB1) |
| 4 | AMFとの間でNASメッセージ交換が行われます。 | NAS Transport |
| 5 | AMFがUEコンテキストをgNBに提供します。 | Initial Context Setup Request (NGAP) |
| 6 | gNBがASセキュリティを確立します。 | SecurityModeCommand / Complete |
| 7 | gNBがSRB2とDRB(s) を設定します。 | RRCReconfiguration / Complete |
| 8 | gNBがAMFにセットアップ完了を通知します。 | Initial Context Setup Response (NGAP) |
RRC_IDLEと同様の原則で行われます (9.2.1.2節参照)。
最後のサービングNG-RANノードによって設定されるUEの移動許容エリア。以下のいずれかの形式で設定されます。
RNAはCNのRegistration Area内に含まれる必要があります。
UEが接続再開(Resume)を要求する手順です。
| ステップ | 動作概要 | 主要メッセージ |
|---|---|---|
| 1 | UEがRACH手順を開始し、I-RNTIを含めて接続再開を要求します。 | Msg3 (RRCResumeRequest) |
| 2 | 受信gNBがI-RNTIに基づき、コンテキストを保持する最後のサービングgNBを特定し、コンテキスト取得を要求します。 | Retrieve UE Context (XnAP) |
| 3 | 最後のサービングgNBがUEコンテキストを応答します。 | Retrieve UE Context Response (XnAP) |
| 4a (成功時) | 受信gNBが接続再開を許可します。 | Msg4 (RRCResume) |
| 4b (失敗時) | 受信gNBは再開を拒否し、新規接続確立へフォールバックします。 | Msg4 (RRCSetup) |
| 5 (成功時) | UEが再開完了を応答します。 | RRCResumeComplete |
| 6 (成功時) | データ転送が必要な場合、受信gNBがデータ転送アドレスを最後のgNBに通知します。 | Xn-U Address Indication (XnAP) |
| 7 (成功時) | 受信gNBが5GCへのパス切り替えを要求します。 | Path Switch Request (NGAP) |
| ... | 以降、パス切り替え完了、旧gNBでのコンテキスト解放へと続く。 | |
ネットワーク (Last Serving gNB) がUEを呼び出す手順です。
| ステップ | 動作概要 | 主要メッセージ |
|---|---|---|
| 1 | DLデータ到着などにより、Last Serving gNBでRANページングがトリガーされます。 | (内部トリガー) |
| 2 | Last Serving gNBはRNA内のセルでページングを実行し、必要ならXn RAN Pagingを送信します。 | RAN Paging (XnAP, オプション) |
| 3 | UEが自身のPOでページングメッセージを受信します。 | Paging (PCCH) |
| 4 | UEが接続再開手順を開始します (上記UEトリガー手順へ)。 | RRCResumeRequest |
UEがRNA外に出た場合、または周期タイマー満了時に実行。
基本的なシーケンスはUEトリガーの INACTIVE -> CONNECTED と似ていますが、Resume要求の Cause が "ran-NotificationAreaUpdate" または "periodic" となります。Last Serving gNBは、コンテキストを新しいgNBに移動させるか、現在のRNA内であれば移動させずにUEをINACTIVEに戻すか、IDLEに遷移させるかを決定します。
ネットワークがResume要求に対し、UEをINACTIVE状態に戻しつつ、別の周波数でのセル選択を促す場合の手順。
ネットワーク制御によるセル間移動手順です。
| ステップ | 動作主体 | 動作概要 | 主要メッセージ/信号 |
|---|---|---|---|
| 1 | ソースgNB & UE | 測定制御と報告。 | RRCReconfiguration (measConfig), MeasurementReport |
| 2 | ソースgNB | ハンドオーバー決定。 | 測定レポート, RRM情報 |
| 3 | ソースgNB -> ターゲットgNB | ハンドオーバー準備要求。(UEコンテキスト, QoS情報, RRM設定など) | Handover Request (XnAP) |
| 4 | ターゲットgNB | 受付制御。 | リソース状況, スライス情報等 |
| 5 | ターゲットgNB -> ソースgNB | ハンドオーバー準備応答 (RRCコンテナ含む)。DAPS HO受諾可否も含む。 | Handover Request Acknowledge (XnAP) |
| 6 | ソースgNB -> UE | ハンドオーバーコマンド発行。(RRCコンテナ内のターゲットセル情報, C-RNTI, セキュリティ設定など) | RRCReconfiguration |
| 7 | ソースgNB -> ターゲットgNB | SN Status Transfer (UL受信状況/DL送信状況)。DAPS時はEarly Status Transferも。 | SN Status Transfer (Xn-U), Early Status Transfer (XnAP, DAPS時) |
| 8 | UE -> ターゲットgNB | ターゲットセルへ同期し、ハンドオーバー完了を通知。(RACH手順経由またはRACH-less) | RRCReconfigurationComplete |
| 8a/b (DAPS時) | ターゲットgNB -> ソースgNB | UEアクセス成功通知、その後にソースgNBがSN Status Transfer。 | Handover Success (XnAP), SN Status Transfer (Xn-U) |
| 9 | ターゲットgNB -> AMF | DLデータパスの切り替え要求。 | Path Switch Request (NGAP) |
| 10 | 5GC (AMF/UPF) | DLパスをターゲットgNBへ切り替え。UPFはEnd Markerを旧パスへ送信。 | (内部処理, End Marker) |
| 11 | AMF -> ターゲットgNB | パス切り替え要求への応答。 | Path Switch Request Acknowledge (NGAP) |
| 12 | ターゲットgNB -> ソースgNB | UEコンテキスト解放要求。 | UE Context Release (XnAP) |
RLF後などにUEが接続回復を試みる手順。
| ステップ | 動作概要 | 主要メッセージ |
|---|---|---|
| 1 | UEが適切なセルを選択し、RACH経由で再確立を要求 (UE ID含む)。 | Msg3 (RRCReestablishmentRequest) |
| 2, 3 | gNBがコンテキストをローカルで持つか、最後のgNBから取得します。 | (Retrieve UE Context (XnAP) オプション) |
| 4, 4a | gNBが再確立を許可し、UEに応答します。 | Msg4 (RRCReestablishment) |
| 5, 5a | UEが完了を応答。必要ならgNBはSRB2/DRBを再設定。 | RRCReestablishmentComplete, (RRCReconfiguration / Complete オプション) |
| 6-10 | データフォワーディング、パススイッチ、旧コンテキスト解放はハンドオーバーと同様。 | |
UEが自律的にハンドオーバーを実行する手順。
| フェーズ | 動作概要 | トリガー/基準 |
|---|---|---|
| 準備 | ソースgNBがターゲット候補gNB(s)にCHOを要求し、設定を取得。ソースgNBがUEに候補セル設定と実行条件を通知。 | ソースgNBの判断 |
| 実行条件評価 | UEが設定された実行条件(測定イベントA3/A5など)を継続的に評価。 | UE測定結果と設定された条件 |
| 実行 | UEがいずれかの候補セルの条件を満たすと判断した場合、そのセルへのハンドオーバー手順を開始(ターゲットへの同期、RRCReconfigurationComplete送信)。 | 実行条件の充足 |
| 完了/キャンセル | ターゲットgNBはHO成功をソースgNBに通知。ソースgNBは他の候補gNB(s)にCHOキャンセルを通知。 | HO成功/通常HO/LTM発生 |
低遅延モビリティのためのセルスイッチ手順。
| ステップ | 動作概要 | トリガー/主要メッセージ |
|---|---|---|
| 準備 | gNBがL1/L3測定レポートを受信しLTMを準備。gNBがUEに候補セルの設定を通知。 | MeasurementReport, RRCReconfiguration |
| 早期同期(オプション) | UEは候補セルとDL/UL同期を行う(TCI State Activation, PDCCH orderによるRAなど)。 | ネットワーク指示/設定 |
| セルスイッチ実行 | gNBがL1/L3測定に基づきスイッチを決定し、MAC CEでターゲット設定IDとビーム情報を指示。 | L1/L3測定, Cell Switch Command (MAC CE) |
| ターゲットアクセス | UEは指示された設定を適用し、ターゲットセルにアクセス(RACHまたはRACH-less)。 | MAC CE受信 |
| 完了 | UEがRRCReconfigurationCompleteを送信(RA手順成功後または初期ULデータ受信後)。 | RRCReconfigurationComplete |
ハンドオーバー時にターゲットセルでのRACH手順を省略する最適化。
RRC_CONNECTED状態において、UEはネットワークからの指示に基づき、モビリティ制御やスケジューリングのための測定を行います。
RRC_CONNECTED状態のUEは、主に以下の目的でページングチャネルを監視します。
RRC_CONNECTED状態でも、様々なトリガーでRACH手順が開始されます。
ネットワーク設定やUEの測定結果に基づき、UEがタイプを選択します。
RRC_CONNECTED状態のUEが無線リンクの品質問題を検出・宣言するプロセスです。
主にFR2で使用され、特定のビームでの通信が失敗した場合に回復を試みる手順です。
UL送信タイミングをDL受信タイミングに合わせるための調整値です。
IoTデバイスなどの省電力要求に応えるため、通常のDRXよりもはるかに長いサイクル(最大約2.9時間)を可能にする機能です。
NRと他のRAT (主にE-UTRA) 間のモビリティについて説明します。
Inter-RATハンドオーバーでは、データ転送や測定手順はIntra-NRハンドオーバーと同様の原則に従いますが、RAT間の差異を考慮した手順となります。
AMFから提供されるローミング情報やアクセス制限(禁止RAT、禁止エリア、CAG制限など)に基づき、NG-RANは後続のモビリティアクションを制御します。この情報はXnハンドオーバー時にNG-RANノード間で伝搬されます。