7. RRC (Radio Resource Control)
RRC は、UE とNG-RAN node (通常はgNB )の間で、無線リソースの制御に関するシグナリングを行うレイヤ3プロトコルです。接続の確立から解放、モビリティ、測定制御、システム情報の配信など、RAN におけるUEの動作を制御する中心的な役割を担います。
7.1 サービスと機能 (Services and Functions)
RRC プロトコルが提供する主なサービスと機能を以下にまとめます。
機能カテゴリ
主な機能・サービス
システム情報配信
SI (MIB , SIB1 , Other SIBs) のブロードキャスト (主に BCCH 経由)
ページング
5GC または NG-RAN 起点のページング制御
接続管理
RRC 接続の確立・維持・解放、CA /DC の管理
セキュリティ
暗号化・インテグリティ保護の設定、鍵管理
無線ベアラ管理
SRB および DRB の確立・設定・維持・解放
モビリティ制御
ハンドオーバー、コンテキスト転送、セル選択/再選択パラメータ制御、RAT 間モビリティ
QoS管理
無線ベアラごとのQoS 設定
測定制御
UEへの測定指示と報告制御
障害回復
RLF 検出と回復手順の開始
NAS転送
NAS メッセージの透過的転送
Sidelink (Uu経由)
リソース割り当て設定、UE情報/測定報告、SL トラフィックパターン支援情報報告
7.2 プロトコル状態 (Protocol States)
RRC には以下の3つの主要な状態があります。各状態での主な動作をまとめます。
状態
主な特徴と動作
RRC_IDLE
PLMN 選択、セル再選択による待機
システム情報受信
CNページング監視
MBSブロードキャスト受信
NAS 設定によるDRX
RRC接続確立が必要
RRC_INACTIVE
PLMN 選択、セル再選択
システム情報受信
RANページング監視
RNA 内移動は通知不要
(外へ出たらRNAU )
NG-RAN 設定によるDRX
5GC 接続は維持、UE ASコンテキスト保持
MBSマルチキャスト/ブロードキャスト受信
SDT によるデータ/シグナリング転送可能
RRC接続再開でCONNECTEDへ遷移
RRC_CONNECTED
5GC 接続確立済み、UE ASコンテキスト確立済み
ネットワークがセル位置を把握
ユニキャストデータ送受信
MBSマルチキャスト/ブロードキャスト受信
ネットワーク制御モビリティ(ハンドオーバー等)
UE能力転送
%%{ init: { 'flowchart': { 'nodeSpacing': 400, 'rankSpacing': 70 } } }%%
flowchart TB
A((Power up))
subgraph De-Registed
B[RRC_IDLE]
A --> B
end
C-->|Dettach|B
subgraph Registered
B-->|Attach| C[RRC_CONNECTED]
C -->|RRCRelease| D[RRC_IDLE]
D --> |RRCSetupRequest| C
C --> |RRCRelease with suspendConfig| E[RRC_INACTIVE]
E --> |RRCResumeRequest| C
end
図7.2-1 RRC状態遷移図
7.3 システム情報ハンドリング (System Information Handling)
7.3.1 概要 (Overview)
システム情報(SI )は、Minimum SI とOther SI に分類されます。
System Information (Minimum SIとOther SI)の主な内容一覧
TS 38.300 v18.5.0 (2025-04) で言及されている主なSIタイプとその用途を以下に示します。
SIタイプ
主な内容・目的
分類
MIB
セルアクセス禁止状態、CORESET#0 設定など、SIB1 受信に必要な物理層情報
Minimum SI
SIB1 (RMSI )
他のSIBのスケジューリング情報、初期アクセス情報、セル選択共通パラメータ等
Minimum SI
SIB2
セル再選択に関する情報(主にサービングセル関連)
Other SI
SIB3
サービング周波数および同一周波数隣接セルのセル再選択情報
Other SI
SIB4
他のNR周波数および異周波数隣接セルのセル再選択情報
Other SI
SIB5
E-UTRA 周波数およびE-UTRA 隣接セルのセル再選択情報
Other SI
SIB6
ETWS
プライマリ通知
Other SI
SIB7
ETWS
セカンダリ通知
Other SI
SIB8
CMAS 警告通知
Other SI
SIB9
GPS時刻と協定世界時(UTC )関連情報
Other SI
SIB10
SIB1にリストされたNPNのHRNN
Other SI
SIB11
アイドル/非アクティブ測定関連情報
Other SI
SIB12
NR Sidelink通信、レンジング、Sidelink測位関連情報
Other SI
SIB13
V2X Sidelink通信のためのSystemInformationBlockType21関連情報
Other SI
SIB14
V2X Sidelink通信のためのSystemInformationBlockType26関連情報
Other SI
SIB15
災害ローミング関連情報
Other SI
SIB16
スライスベースのセル再選択情報
Other SI
SIB17 / SIB17bis
RRC_IDLE/RRC_INACTIVE UEのためのTRS 設定情報
Other SI
SIBpos
測位支援データ
Other SI
SIB18
SNPN に関連付けられたネットワーク選択用グループID (GIN ) 情報
Other SI
SIB19
NTN サービングセルおよび(オプションで)隣接セルのNTN 固有パラメータ
Other SI
SIB20
MBSブロードキャスト用のMCCH 設定
Other SI
SIB21
MBSブロードキャスト受信のサービス継続性関連情報
Other SI
SIB22
ATG サービングセルおよび(オプションで)隣接セルのATG 固有パラメータ
Other SI
SIB23
レンジングおよびSidelink測位関連情報
Other SI
SIB24
RRC_INACTIVE状態でのマルチキャストMCCH /MTCH 設定取得に必要な情報
Other SI
SIB25
TN カバレッジ情報 (NTN 用)
Other SI
7.3.2 スケジューリング (Scheduling)
MIB はBCCH ->BCH で伝送。他の全てのSI メッセージはBCCH ->DL-SCH で動的に伝送。SIB1 がOther SI のスケジューリングを示す。
オンデマンドSI要求: RRC _IDLE/RRC _INACTIVE (SDT 未実行時) ではRACH 手順(MSG1またはMSG3)で、RRC _CONNECTEDでは専用シグナリング(UL-DCCH )で要求。
7.3.3 SI変更 (SI Modification)
システム情報(ETWS /CMAS を除く)の変更は特定の無線フレーム(Modification
Period)でのみ発生。変更がある場合、事前にページングで通知され、UEは次のModification Periodの開始から新しいSI を取得・適用する。
7.4 アクセス制御 (Access Control)
NG-RAN は、ネットワークの過負荷(輻輳)状態などに対応するため、以下のアクセス制御機能を提供します。
RACH バックオフ:
ランダムアクセス試行が衝突した場合などに、UEに一定時間待機させる機能。
RRC Connection
Reject:
RRC 接続確立要求に対し、ネットワークがリソース不足などの理由で拒否する機能。待機時間を示すこともあります。
RRC Connection
Release:
確立済みのRRC 接続をネットワーク側から解放する機能。
Unified Access Control (UAC ):
UEのアクセスカテゴリとアクセスアイデンティティに基づき、より詳細なアクセス制御を行う仕組みです。
ネットワークはSIB1 などでアクセスカテゴリごとの禁止情報を報知します。
UEは自身のアクセスカテゴリとPLMN 、報知された情報に基づいてアクセス試行の可否を判断します。
NAS 起因の要求:NAS がアクセスカテゴリとアイデンティティを決定します。
AS起因の要求:RRC がアクセスカテゴリを、NAS がアイデンティティを決定します。
緊急コールなど特定のアクセスは優先され、極端な負荷状態以外では拒否されません。
IAB-MT やNCR-MT には適用されません。
7.5 UE能力取得フレームワーク (UE Capability Retrieval framework)
ネットワークがUEの持つ無線アクセス能力を把握するための仕組みです。
報告トリガー: 通常、ネットワークからの要求(UECapabilityEnquiryメッセージ)に基づいてUEは自身の能力を報告します。
能力情報の内容: サポートする周波数バンド、CA /DC の組み合わせ、MIMO 能力、変調方式、各種機能(SL 、NTN など)のサポート有無などが含まれます。
静的な情報: UE能力は基本的に静的な情報として扱われます。
バンド指定要求: gNB は特定のバンドに関する能力情報のみを要求することができます。
Capability ID: UE能力全体を短いIDで表現し、シグナリングオーバーヘッドを削減する仕組みも利用可能です。NAS シグナリングでIDが交換されることがあります。
IAB-MT のサポート:
IAB-MT がこのフレームワークをサポートするかはオプションです。サポートしない場合、ネットワークは他の手段(OAM など)で能力を把握する必要があります。
7.6 NASメッセージ転送 (Transport of NAS Messages)
RRC は、NAS (コアネットワークとの間のプロトコル) とUE間のメッセージを中継する役割を担います。
信頼性と順序性: SRB
(Signalling
Radio Bearer) を使用し、NAS メッセージを信頼性高く、順序を保証して転送します(ハンドオーバー時のPDCP 再確立を除く)。
透過コンテナ: NAS メッセージ自体はRRC にとって透過的であり、RRC メッセージ内のコンテナに入れて運ばれます。
ピギーバック: 特定のRRC 手順(例:接続確立、再開、ベアラ設定/変更/解放)において、NAS メッセージをRRC メッセージに含めて(ピギーバックして)効率的に転送できます。
セキュリティ: NAS レベルのセキュリティに加え、PDCP レイヤで追加のインテグリティ保護と暗号化を適用することも可能です。
配信失敗通知: NG-RAN は、AMF から受信した非PDU セッション関連NAS
PDUをUEに配信できなかった場合、NAS NON DELIVERY INDICATION手順でAMF に報告できます。
7.7 キャリアアグリゲーション (Carrier Aggregation)
CA は複数の周波数キャリアを束ねて通信速度を向上させる技術です。RRC はCA の設定と管理において重要な役割を果たします。
単一RRC 接続: CA が設定されていても、UEはネットワークと単一のRRC 接続を維持します。
セルグループ: サービングセルは1つのセルグループに属します(NR-DCの場合はMCGとSCG)。
PCell (Primary Cell):
RRC 接続確立/再確立/ハンドオーバー時にNAS モビリティ情報とセキュリティ入力を提供する特別なサービングセルです。
常にアクティブ状態です。
SCell (Secondary Cell):
PCell と共に追加の無線リソースを提供するために設定されるセルです。
RRC によって追加、設定変更、削除が行われます。
SI は専用RRC シグナリングで提供され、UEはSCell の報知SI を読む必要はありません。
アクティブ化/非アクティブ化により省電力が可能です(10.6節参照)。
ハンドオーバー時のSCell 管理:
Intra-NRハンドオーバーやRRC _INACTIVEからの再開時に、ネットワークはターゲットPCell と共に使用するSCell を追加、削除、維持、または再設定できます。
7.8 帯域幅適応 (Bandwidth Adaptation)
BWP (Bandwidth Part)
は、UEが常にセル全体の広帯域幅を監視・処理する必要なく、より狭い帯域幅で動作できるようにする省電力および柔軟性向上のための仕組みです。
設定:
SpCell (PCell またはPSCell ): gNB はULおよびDLのBWP を設定します。
SCell : gNB は少なくともDL BWP を設定します(UL BWP はオプション)。
初期BWP :
PCell : 初期アクセスに使用されるBWP はシステム情報で設定されます。
SCell : 初期アクティベーション後に使用されるBWP は専用RRC シグナリングで設定されます。
アクティブBWP の切り替え:
以下のトリガーで、設定済みのBWP 間でアクティブなBWP を切り替えます。
専用RRC シグナリング
DCI (Downlink
Control
Information)
非アクティブタイマー (bwp-InactivityTimer)
RACH 手順の開始時 (Initial
access時など)
アクティブBWP の数:
通常、サービングセルごとに最大1つのアクティブDL BWP と最大1つのアクティブUL
BWP 。
SUL (Supplementary Uplink)
設定時は、各ULキャリアに最大1つのアクティブUL BWP 。
ペア/不ペアバンド: ペアバンド(FDD )ではDLとULのBWP 切り替えは独立。不ペアバンド(TDD )では基本的に同時。
デフォルトBWP :
非アクティブタイマーが満了すると、ネットワークが設定したデフォルトBWP に切り替わります。
7.9 UE支援情報 (UE Assistance Information)
設定された場合、UEはネットワークに対し、UEAssistanceInformationメッセージを通じて以下の情報を通知可能です:
コネクテッドモードDRX 関連:
DRX サイクル長調整希望(遅延バジェット報告のため)
省電力のための特定のDRX パラメータ値希望
省電力関連:
SCC の最大数削減希望
最大集約帯域幅削減希望
MIMO レイヤの最大数削減希望
最小スケジューリングオフセット K0/K2 希望
状態遷移関連:
近未来にデータ送受信がない見込み(RRC状態遷移希望、または以前の希望のキャンセル)
MUSIM運用によるRRC状態遷移希望と、遷移後の希望RRC状態
MUSIM関連:
MUSIMギャップの設定/解放希望
周期的MUSIMギャップの優先度設定希望
衝突するMUSIMギャップの維持希望
MUSIM運用のためのUE能力一時的制限/解除希望
その他:
内部過熱状態の通知
参照時刻情報の提供希望(または不要)
自己解決不能なIDC問題情報(影響周波数、DRXベースのTDM支援情報など)
RRM /RLM /BFD 測定緩和状態
FR2でのマルチRx非動作希望(例:異なるQCL-typeD の同時受信をサポートしない場合)
7.10 RRCメッセージ分割 (Segmentation of RRC messages)
RRC メッセージは、サイズが大きい場合に分割して送信することが可能です。
必要性: エンコードされたRRC メッセージPDU が、PDCP レイヤで扱える最大SDU サイズを超える場合に分割が行われます。
方法: RRC レイヤ自身が分割を行います。元のRRC メッセージは複数のセグメントに分割され、各セグメントが個別のRRC PDU として送信されます。
再構成: 受信側のRRC エンティティが、受信したセグメントを元の完全なRRC メッセージに再構成します。
送信順序: あるRRC メッセージの全てのセグメントは、次のRRC メッセージを送信する前に全て送信される必要があります。
サポート方向: アップリンク、ダウンリンクの両方でサポートされます (TS 38.331 [12]参照)。